1.マネジメント概要 
2.チャンス 
3.品質管理を成功させるために必要なこと 
4.POSEデータセグメンテーションモデルの紹介
 プロセス
 オペレーション
 サプライヤー
 有用性 
5.POSEモデルを始めるための3つのステップ 
6.結論 

1.マネジメントのサマリー

「データは今やライフサイエンスの通貨であり、データを企業全体に動員、業務の変革、テクノロジーを共生的に活用することが、デジタルトランスフォーメーションを進めるための基本になるでしょう。」このように、Deloitte(デトロイト)の「Global Life Sciences Outlook Report(グローバルライフサイエンスアウトルックレポート)」で紹介されています。

このデジタル・トランスフォーメーションは、人工知能(AI)、機械学習(ML)、モノのインターネット(IoT)を含むインダストリー4.0技術によって始まったもので、デジタル・クラウドベースの企業品質管理システム(EQMS)によって実現されました。デジタル変革によって、ライフサイエンス企業の品質管理部門は、企業運営のあらゆる側面(研究開発、製造、外部サプライヤーなど)から、複数のシステム(ERP、CRM、MES、PLM、LIMSなど)を経由して、膨大な量のデータにかつてない速さでアクセスできるようになっています。 

しかし、データは有意義で実用的でなければ意味がありません。品質管理部門は、関連するデータをグループ分けなどでセグメント化し、組織にとって最も重要な主要業績評価指標(KPI)を特定し、測定できるように構造化する必要があります。この構造化は、品質管理の役割が遵守からパフォーマンスへとシフトする中で、いままで以上に重要になります。

かつて品質管理部門は、規制を遵守し続けることだけに集中できました。しかし今日、経営幹部は品質管理部門が今後を見据えて、その分野全体でオペレーションおよび経済的なパフォーマンスに直接、かつ、有意義な影響を与えることを期待しています。つまり、研究開発(R&D)から製造、そして外部サプライヤーに至るまで、品質管理部門が関わるすべての領域において、より高品質な医薬品を最小限の副作用で、そしてより迅速に市場に供給し、トップラインの収益を上げることを求めています。 

この記事では、品質管理部門が企業全体のパフォーマンスに影響を与えることについて、不可欠なデータ、プロセス、システム、および品質管理部門が企業全体のパフォーマンス目標に沿ったKPIを設定、測定、追跡するために活用できるモデルを紹介します。 

2.チャンス

ライフサイエンス業界のほとんどのメーカーは、品質を単一の焦点を持つ独立した部門と見なし、規制遵守を中心に品質管理部門と品質管理システムを構築し、それらを単独の部門として捉えてきました。

経営幹部は、品質管理とコンプライアンスを維持する役割を、追加的なコストの領域(つまり、追加のビジネス価値を付加するのではなく「工場の明かりを灯し続ける(つまり仕事を続けるの意)」ための不可欠な機能)として捉えていることが多いようです。 

しかし、そういった考えは、より高品質な医薬品をより早く市場に投入することで得られる巨大な収益機会を逃すことにつながります。品質管理部門は、企業のあらゆる側面と相互作用します。そのため、製品ライフサイクル全体から隠れたデータ群を発見し、品質フィードバックループに送り込み、継続的な改善を促進するためのインサイトエンジンの役割を果たすことも可能です。 

つまり、コンプライアンスは、もはや最終目的ではなく、むしろ製品の品質、安全性、有効性、供給の継続性(現行製品と新製品の両方)を向上させるための企業努力の副産物です。 

品質管理が果たす役割を、コンプライアンスの慣例にとらわれず、組織全体を変革する主体へと昇華させたメーカーは、問題をより迅速かつ速やかに特定し、対処することでコスト削減、リコール回避、患者の安全確保を実現すると同時に、コンプライアンスを維持できます。 

具体的に影響を与える分野は以下のとおりです。

  • ・リスクとリコールの抑制
  • ・製品の品質、患者の転帰、および顧客満足度の向上
  • ・業務効率の追求 
  • ・市場投入までの時間短縮
  • ・バリューチェーンの強化

3.品質管理部門が成功するために必要なこと 

品質管理部門が成功するために必要なことを解説します。

デジタル化とデータ 

品質管理部門が経済的パフォーマンスに影響を与えるためには、企業全体で即座にアクセスできる、正確で意味のあるデータが不可欠です。影響を受けるステークホルダーの心に響く洞察を引き出して提示できる分析能力が必要となります。品質管理部門では、潜在的な問題に積極的に対処したり、問題が上流のうちに対処したりする能力が求められます。問題が下流となり、高コストをかけて逸脱・苦情・是正措置・予防措置(CAPA)に発展した状態で対応するのではなく、上流のうちに対応しなければなりません。

Pharma Quality Outlookの調査(※)では、ライフサイエンス業界の専門家のうち、58%が品質データを使用して部門横断的なパフォーマンスを改善すると予測しており、2018年と比較して17%増加しています。こういった医薬品メーカーは、品質管理におけるデータの価値を理解してはいるものの、技術力が足かせとなっていると回答しています。同調査では、回答者の3分の1が、完全で正確なデータへのアクセスを最大の障害として挙げています。主な障害は現在の品質マネジメントシステム(QMS)であり、調査回答者の約半数(46%)がデータアクセスと分析を既存のQMS(品質マネジメントシステム)の最大の課題として報告しています。

※出典:2019 Pharma Quality Outlook:Performance Becomes Priority, Sparta Systems

ライフサイエンス業界は現在、インダストリー4.0技術(AI、ML、IoTなど)によるもので、データ収集と管理に革命をもたらすデジタルトランスフォーメーションの真っ只中です。このようなイノベーションを取り入れている企業は、リアクティブな品質管理からプロアクティブな品質管理へと移行するために必要なデータに、シームレスにアクセスしています。一方、まだ手動プロセスにとどまっている企業は、ますます後れを取っています。

前時代のQMSプラットフォームと手動プロセスを使い続けているライフサイエンス企業は、プロアクティブなパフォーマンス重視の品質管理に必要な成熟度から大きくかけ離れており、それらを導入している企業に追いつける見込みはありません。
一方、電子化、および、自動化された企業品質マネジメントシステム(EQMS)を導入し、データと分析にアクセスできる企業は、インダストリー4.0技術を活用したデジタルトランスフォーメーションを達成するのに、十分な準備が整っています。

ライフサイエンス業界の専門家の半数(47%)が、品質管理予算の増加を見込んでいます。15%が今後12~16か月で、統合されたEQMSの購入を計画しており、12%がクラウドベースのデジタルプラットフォームこそ新たな品質管理システムの最優先検討事項であると回答しています。

出典:マッキンゼー・アンド・カンパニー|製薬業界におけるデジタル成功への道|2015年8月

次のステップ:実用的な洞察

これまで本記事では、ライフサイエンス分野の品質管理部門が企業の経済的・経営的パフォーマンスに影響を与える機会と、意思決定の基盤となるタイムリーで関係性のあるデータにアクセスするべく、品質管理プロセスをデジタル化する必要性について説明してきました。しかしデータを手に入れた後、それをどのように活用すればよいのでしょうか。 

4.POSEデータセグメンテーションモデルの紹介

POSEモデルは、品質管理部門が関連データを構造化し、意味のある洞察を得るために役立ち、適切な行動と効果的なアクションを促進するものです。これは、品質管理が企業の経営に大きな影響を与える可能性のある4つの分野(プロセス・オペレーション・サプライヤーの品質・有効性)の頭文字に対応します。

次のセクションでは、POSE モデルの各分野の主要業績評価指標(KPI)の例を紹介します。企業がPOSE データ・セグメンテーション・モデルを通じて特定し、測定できる KPI の一例に過ぎません。企業はこのモデルを使用して自社の品質管理業務に最も関連する KPI を特定できます。 

プロセス

品質とコンプライアンスを管理するために設計されたプロセスの再現性と予測可能性は、より良いパフォーマンスを促すための鍵です。これらのプロセスの効率性と有効性を測定する方法の一例として、100万件当たりの苦情(CPM)があります。CPMのKPIに関する効果・効率を測定するには、2つの重要なデータソース、すなわち、製品品質の苦情データのためのEQMSと販売流通データのためのERPシステムが必要です。

品質管理部門は、製品の品質に関するCPM(苦情データ)を集計、要約し、洞察を構築しやすい形で提示しなければなりません。また、ロット情報や製造情報も保管する必要があります。ERPデータに関しては、地域別、製品カテゴリー別の売上高で集計する必要があるでしょう。品質管理部門は集計されセグメント化されたデータを使うことで、品質管理部門は、CPM(苦情データ)を決定できます。 

毎月のCPM率を把握することで、メーカーは製造拠点やロット全体の品質やパフォーマンスを測定し、その情報に基づいて行動を起こせます。たとえば、特定のロットのCPMが高すぎる場合、企業はリコールを実施の選択をするかもしれません。 

オペレーション 

ロットの手直しや再加工をすることなく最初から最後まで一貫して製品を製造する能力はオペレーション・パフォーマンスにとって極めて重要です。企業のオペレーションに関連する価値あるKPIの1つに「RFT(Right First Time)率」があります。RFTは運用における優れた指標となるもので、製造業者の製品あたりの総不良品/不良品(APR)に関する洞察を提供します。 

RFT 率を計算するにはEQMS から偏差とCAPA、ERPシステムからバッチ情報が必要です。正しいRFT率を算出するためには、CPM・KPIと同様に、両方のシステムからデータを集計・要約することが重要になります。 

もし、RFT率が低い場合は、品質管理プロセスが有効でない可能性があります。この場合、オペレーションチームはフィードバックループを通じて、研究開発部門に対して根本的な原因を提案するなど、断続的な改善を促すことが可能です。 

サプライヤーの品質 

企業は過去と現在の実績に基づいてサプライヤーを評価し、比較できます。この分野で重要なKPIはサプライヤーリスクスコアです。定性的および定量的な要因に基づいてサプライヤーのリスクを示すものであり、サプライヤーリスクスコアにより、パフォーマンスに対する信頼度がわかります。 

サプライヤリスクスコアKPIを計算するためには、EQMSからのサプライヤーの苦情調査・CAPA・監査所見のデータ・ERPシステムから集計された再加工とリリースデータが必要です。先の例と同様に、両システムからのデータを集計・要約し、洞察が得られます。 

品質管理部門はスコアが低いサプライヤーを特定した場合、問題を経営陣に報告し、会社が代替供給源を特定できるようにすることで、リスクを軽減できるでしょう。

有用性 

品質管理部門は、実施した是正処置が特定の問題を効果的に解決し、再発を防止したかどうかを測定する必要があります。このカテゴリーのKPI の一例は、CAPA効果率です。繰り返しの失敗の排除と、企業のCAPAの有効性を示します。 

このKPIを算出するために必要なデータソースは、CAPAと有効データ・逸脱データの両方であり、ここにはEQMSが含まれます。ただし、CAPAの有効率を正確に測定するために、品質管理部門はCAPAと有効データと逸脱データ・CAPA後の逸脱データを集計しなければなりません。 

この情報があれば、品質管理チームはCAPA実施後の逸脱データ数を把握することができ、この情報を使って、根本原因の特定能力を高められます。CAPAの有効率が低い場合、企業は改善への一歩として人材教育の見直しなどに取り組んでみてもよいでしょう。

5.POSEモデルを始めるための3つのステップ

ライフサイエンス業界の製造業者が、コンプライアンスを超えて、有意義で意味のある洞察を得たいならば、以下のステップを踏んでPOSEモデルを始めてください。

ステップ1:システムの統合 

POSEモデルKPIを特定し、測定するために必要なレベルのデータアクセス集計・分析 を行うために、製造事業者はEQMSを以下のような品質関連データを含むプラットフォームと統合する必要があります。

  • ERP(企業資源計画システム)
  • LIMS(検査室・管理情報システム)
  • CRM(顧客関係管理)システム

ほかにも、継続的な改善のための測定報告を可能にするプロセスとシステムを導入しなければなりません。この統合を実現する最も効果的かつ効率的な方法は、クラウドベースのEQMSを使用することです。デジタル・クラウドシステムは、ほかのシステム(社内およびサードパーティの両方)との統合がより容易であり、複数のサイトやユーザーからのデータ入力を促進するため、全社的な可視性と影響力に必要な品質データの中央保管庫としての役割を果たしてくれます。デジタル・クラウドベースのEQMSを導入することで、メーカーはインダストリー4.0テクノロジー(AI、機械学習、自然言語処理など)を活用し、より迅速な洞察と行動を起こせるようになります。 

ステップ2:目標とステークホルダーを明確に理解・定義する

企業は品質目標(例:苦情が適切で正確に効率的かつ一貫して処理される)を設定し、これらの目標の達成に関与するステークホルダー(例:研究開発、監視グループ、治験監督、規制当局、経営陣)を特定していきます。さらに、目標達成のために必要な洞察の種類(KPI)と、いつ洞察が必要であるか(例:リアルタイム、品質/年次報告)を決定しなければなりません。 

ステップ3:エスカレーション・パスの定義 

目的とステークホルダーが把握できたら、品質管理部門は報告データとパフォーマンス指標内にトリガーポイントを設定し、適切なアクションに洞察を促すためのエスカレーションパスを定義すべきです。洞察に基づいて行動しなければ、価値は生まれません。

6.結論 ライフサイエンス企業の品質管理の未来は、適合ではなくパフォーマンス 

品質機能において、企業は常に国際的な規制に適合していることを確認する責任を追います。そして、ライフサイエンス企業の経営陣は、品質管理部門に対して、単に適合する以上の期待に応えてくれるよう要求しています。今日では、パフォーマンス・ベースの品質管理部門は、企業の収益に意義深い影響を与えているのです。

このような抜本的な転換を実現するためには、品質管理部門は、サイロから抜け出し、品質管理部門が関与するすべての領域(研究開発、製造、外部サプライヤーなど)において、経済的・経営的パフォーマンスを向上させることに焦点を広げなければなりません。そのためには、推測や勘ではなく、正確でタイムリーなデータに基づく戦略的意思決定が必要です。 

品質を単なる部門としてではなく、製造業者としてあらゆる側面を通じて達成すべき目標として捉えたなら、品質指標を特定し、測定する難しさが明らかになるでしょう。

製品ライフサイクル全体の品質状態を把握するために、 ライフサイエンス品質管理部門には、すべてのほかの重要な運用システム(ERP、CRM、MES、PLM、LIMSなど)と統合されたEQMSが必要です。なぜなら、各段階における品質データの収集、集計、セグメンテーションが容易になるからです。デジタル・クラウドベースのEQMSプラットフォームに移行した企業は、包括的でリアルタイムの意思決定のために、情報をシームレスに統合でき、インダストリー4.0が提供するゲームチェンジャー的な分析ツールを活用できます。

品質管理部門は、そのパフォーマンスにアクセスして、分析するためのシステムとデータを整備したら、企業の目標に沿った品質KPIを設定し、Cスイートに共鳴する形で目標を設定し、現状を評価し、変更を実施し、結果を測定できるようにする必要があります。POSE データモデルでは、中堅企業や新興企業の小規模な品質管理部門であっても、このようなことを達成するための効果的かつ効率的な手段を提案しています。